【兄弟の血】アンデシュ・ルースンド&ステファン・トゥンベリ ★★★★

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 スェーデンを震撼させた連続銀行強盗事件の実話を題材にした【熊と踊れ】で暴力的な父の元で育った三兄弟のとってもスリリング(この語彙は解説より)だが、またとっても哀しい物語を描いたアンデシュ・ルースンド&ステファン・トゥンベリの期待の続編【兄弟の血】を読んだ。
 アンデシュ・ルースンドの作品は【制裁】【三秒間の死角】、【ボックス21】等を読んだが、特筆すべきは今回の共著者ステファン・トゥンベリこそは強盗事件を起こした三兄弟と実の兄弟であった事だ。先の連続銀行強盗事件に関わった兄弟は実は四兄弟で、ステファンは上から2番目なのだったが、唯一強盗事件に加わってなかったのだ。20年後ルースンドとステファン・トゥンベリが出会い、ステファンが自らの見聞きしたことを踏まえて共著の形で出したのが前【熊と踊れ】だ。内容はほぼ事実に即しているという。
 【熊と踊れ】の時代、三兄弟の父イヴァンは母ブリット=マリーを殴り殺そうとして、わずか14才のレオが決死の覚悟で父にとりついてかろうじて止めたのだった。レオは母と二人の弟を守るためにけなげに必死に生きてきたが、父の暴力の絆はレオの中で生き、父と同じように暴力によってしか世界と関われないのだった。
 父は逮捕され、母は入院して弟達の面倒を見なければいけない。レオはこの時点ですでに、学校から盗み出したわずかな金を元手にして、次の犯罪に必要な材料を購入し、最終目的である大手スーパーから大金を盗み出すという、巧妙で複雑高度な計画を立て冷静にそれを実行に移すことのできる犯罪者だったのだ。
 本作【兄弟の血】では、前作で最終的に警察に捕らえられた三兄弟とその父のその後を書いている。主犯である長兄レオがいよいよ出所するその時にはもう、父と次男フェリックス、三男ヴィンセントは刑期を終え、いわば”まっとうな”生活を送っていたが、レオの出所により、またもや犯罪の世界からの風圧にさらされることとなる。ただし、本当の世界では彼らの全ては、出所後犯罪からは遠ざかり堅実な生活を送っているという。従って本作【兄弟の血】は完全なフィクションであり、冒頭にも『これは小説である。』とちゃんとことわっている。しかし、実際に起こった事件の関係者の間で様々な物議が生じたらしいことは解説でも言及している。
 【熊と踊れ】の終末で三兄弟と父を逮捕した刑事ヨン・ブロンクスを激しく憎むレオと刑務所で知り合ったサム・ラーシェンは、あろうことかヨンの実の兄であった。サムはレオの家庭と同じく極めて暴力的な父から弟ヨンを守るために父を殺し、そのヨンの通報により殺人者として裁かれ刑に服していたのだった。弟ヨンに対する究極とも言える”貸し”を持つサムも、ヨンに対して言い尽くせない不合理感を抱いている。また、レオとサムは同じく兄弟の長兄であり、弟を守るために行動を起こしたということでは相通ずる基本習性を持っていたと言える。この点において意気投合したレオとサムはヨンへの報復のため、思いもよらない計画を立てる。
 物語はいよいよレオの出所の時からスタートする。刑務所の門前に迎えに来たのは、母と次男フェリックス。三男ヴィンセントはなにかと理由をつけて現れない。しかし門の一方の端には父イヴァンが来ていた。母と次男、それと父は決別して生活していたその2者が、よりによってレオの出所の刑務所の門前で対峙している。
 先だって出所していたサムの手配により、レオが出所したその日からわずか4日間で完結するはずの、スェーデン警察をあっと言わせる大略奪作戦が進行する。
 レオに巻き込まれるのは、次男フェリックスか、それとも内装会社を起こし二度と犯罪に手を染めないと近いレオを避ける三男ヴィンセントか、それとも父イヴァンか?各々がそれを危惧し、母ブリット=マリーは怯える。
 そしてヨン・ブロンクス刑事と殺人犯サム・ラーシェンの兄弟の恩讐はどのような解決を見るのか?

 どきどきするような緊迫した文章使い。犯罪計画が着々と進行し、登場人物達がいやおう無く巻き込まれようとしているストーリーの中で、重奏的に【熊と踊れ】当時の三兄弟のけなげすぎて哀しすぎる暮らしざまに時間が巻き戻される。
 暴力の連鎖。レオがなぜレオなのか、をいやというほど実感させられる。そして哀しい結末。
 本作【兄弟の血】は”小説”として、前作【熊と踊れ】を越える凝結を果たしたと思う。
 

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