時代は借主側に!賃貸借契約条項差止訴訟

 賃貸の貸主と借主は、物を貸す側と借りる側、賃料を払う側と受け取る側ですので、その利害は端的な表現をすれば、片方がより得をすれば、片方はその分損をする、という立場に有ります。これを”利益相反関係”と言います。貸す方はより少ない投資で物件を貸し出したい、借りる方はもっと豪奢な建物設備を求める。貸主はより高い賃料収入を期待し、そして借主は極力払いを少なくしたい。原状回復費用などもそうですね。家主は退去した人から、借主負担となる原状回復費用をいただけば、単純にその分だけ出費が減ります。そこには一定の無視できないルールがあるのはもちろんですが。
 
賃貸の実情を真剣に考える方であれば、既に近畿地方で相次いで、更新料・敷引き等の賃貸条件無効判決(高裁まで、最終審未)が出ております。近畿地方に見られる高額かつ1年毎の更新料支払い条件や多額の敷金と敷引きに関して、”No”が突きつけれらた訳ですが、関東地方では、そのような風習も余り見られないし、貸す側も借りる側も、だからどのなの?という感じで見過ごしてきました。

 そう言ったことを踏まえて、先般の差止請求訴訟のあらましを見てみます。これは去る9月6日に”消費者機構日本”という団体が三井ホームエステートに対して、2年毎の契約更新時の更新料支払条項や退居時の原状回復費用の借主負担特約等全部で5つの契約条項の差止請求訴訟を提起したものです。
 この手の訴訟は通常、例えば”更新料の支払い”という事実の発生ののちに、不法行為による損害賠償訴訟を起こすという、段取りでした。そしてその裁判の結果が”判例”となり、以降発生する他の争い毎のひとつの判定基準となる、という事です。ただし、”判例”はあくまで、その個別の訴訟の”事情”を十分に吟味したものですから、”事情”が異なれば、まったく同じ様な”題名”のつく裁判でも異なった判決となります。
 しかし今回の訴訟提起の注意点は、事実の発生に至る以前、つまり”判例”が出る前に、訴訟を提起したという事です。”個別の事情を斟酌した判例”がある、ということだけであれば、以降発生する個々の争い事の場合、”判例”で納得がいかなければ、都度都度の訴訟を提起する、ということになりますが、この差止請求では、個別の事情を考えず、賃貸借契約の条項自体を無効と訴えている訳ですから、極めて重大な意味があります。この差止訴訟の判決の如何により、今後の賃貸借契約条項自体が大きく変わってくる可能性があります。

 それでは実際に契約条項のどの項目が差止請求の対象になっているかを、おおざっぱに(わかりやすく)意訳してみます。
 1.退居時の原状回復に関して損傷原因が不明確な場合は賃借人が全部又は一部を負担。
 2.借主が一定の権利能力を失しそうな場合(後見開始審判を「受けた」)や破産等をした場合は契約解除・更新拒絶。
 3.退居時現状回復に関して、経年劣化・自然損耗でも、「重量物の設置による床の凹み」・「冷蔵庫の後等の電気焼け」・「ハウスクリーニングやカーペットシャンプー」等の費用は借主負担。
 4.更新時更新料を払う。
 5.契約解除(終了)後に退去明け渡ししない場合は賃料の倍額の損害金を払う。

 極めて個人的な私見を述べます。
 1.は差止OK(理の当然。今後は家主も入居前には部屋の状態を今まで以上に詳細にチェックするようになるはず)
 2.は差止NG(物の貸し借りはお金の貸し借りと同じ。お金の場合が有りで物の場合は無しでは不公平)
 3.は微妙(住んでいる以上、ある程度の損傷は免れない。むちゃくちゃ神経質な使い方をすれば、現に全くきれいな状態を維持する賃借人もいます。しかしそこまで気を使って住まなければいけない、というのは快適な生活とは言えない。ただ、唖然とするヒドイ使い方をする人も実際にいるので、そういう悪質入居者には一定の負担を課すというのも必要かも)
 4.は差止NG(賃貸借契約をする前から、説明を受け予め解っていることで、戦後の永い慣習もある。3.のいくら取られるか解らないという事ではない)
 5.は一部差止NG(典型的には賃料を払わないなどの借主に責のある”契約解除”の場合まで、ノーペナルティでそのまま住めるということだと、家主の権利はなにも無いということになってしまう。家主からの”特段の事情の無い”解除の場合は差止OK)

 まちのふどうさん不定期発行の賃貸経営H22年夏号(未アップ)にも”消費者契約法”について触れてありますが、あらゆる情報が専門家でなくても、極めて簡単にしかも短時間に検索・入手できる今日では、いままで、この業界・あの職種だけの”門外不出”のお話ですら、広く一般に流布する時代となりました。

(賃貸経営レポートは下記の公開フォルダにアップされております。順次このブログにもアップする予定ですが、よろしかったら是非ご覧下さい)

http://pub.idisk-just.com/fview/-vJH5fYRWiraVgpGa_1tz2yPV0XTgl5_siu9hSje8d052qi4wwDqnHDqke492Wgoan8pIspuafqd5nnfH2VY5w


 今回取り上げた差止請求訴訟では、”消費者”である立場の借主と”事業者”である貸主という”消費者契約法”の枠組みの中で、貸主側の利を計った形になる”管理会社”が訴えられています。賃貸の現場で貸主・借主を事業者・消費者と位置づけてしまうのは、多少違和感を抱かざるを得ませんが、”プロ”である管理業者や仲介業者が”事業者”である点は正しいと思います。

 そして、貸主と借主の間に立つわれわれなような業者が、より公平な視点で双方の利害の調整を図るという必要がいままで以上に高まってきております。 今後の賃貸の現場では、より条理にかなった形での契約が、貸主借主間でなされなければいけません。今回の差止請求訴訟の対象となったのは、一管理事業者の賃貸借契約の”ヒナ型”です。当然別の事業者であれば別の”ヒナ型”を持つ訳ですが、私の経験では大手の管理業者は似たり寄ったりの内容の賃貸借契約が多いのです。
 地場の業者では(私の会社も含めて)もう少し”借主に甘い”感じになります。後述とも関連しますが、それは単に地場の中小業者だから、ということではなく、地場の業者は、賃貸の現場では家主・入居者の間の具体的な問題を都度都度調整することが自分達の仕事であることを熟知しているからです。実際には契約に書ききれない、或いは契約になじまない”ソフト”の部分がたいへん多いのです。忙しいだけの大手のイケイケ営業マンよりも地場の業者の方がずっと勉強しているはずです(少なくとも心ある業者は)


 冒頭で賃貸借契約では、貸主借主は”利益相反関係”であると書きましたが、実際はそうであってはいけないと思います。
 貸す者が借りる者から相応の対価を取るのは極めて当然です。イデオロギーの違いに関係なくこの前提が無いと社会自体が機能しませんから。
 しかし、どこかに双方の協力関係・信頼関係・共存関係という解決点があるのでは無いでしょうか?そこのところをなんとかして行きたいと微力な私は思っております。 


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