【沼の王の娘】カレン・ディオンヌ ★★★★★

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 ”自然環境などをテーマにしたスリラー”(本書解説より)など3冊の著作があり、本書でバリー賞最優秀賞を受賞したという1953年生まれのカレン・ディオンヌ作、【沼の王の娘】を読んだ。個人的な趣味で言えば満点である。そう思って読了したら、なんと近々映画化されると書いてあるじゃありませんか!自分の見立ても決して間違っていないのだと、妙な慰めを覚えた。
 娘と父親の対決である。しかも、その父は14才の少女を誘拐し、ミシンガン湖の北、カナダとの国境近くの寒さ厳しい山中の湖沼近くの掘っ立て小屋(「キャビン」)に監禁していた。何あろう娘ヘレナの母がその誘拐された少女そのものなのだ。ネイティブインディアンの血を引く父は、電気もガスも電話も無い厳しい自然の中で暮らし、賢い動物を出し抜き捕らえ喰らい、衣食をまかなうノウハウと体力技能を持つ。子供を産ませるために母を誘拐し、生まれた娘ヘレナにそのノウハウを全て伝授しようとしたのだ。自然の摂理に負けること無くたくましく生きる力を蓄えるよう父は時によっては、しかも幼い頃からそれは厳しくヘレナを鍛えたのだ。ヘレナはそんな父に畏敬の念を持ちつつ育ちある意味愛情すら感じていた。そんなヘレナにも、父の異常性が実感されるようになってきた12才になった時に、あるきっかけにより母とヘレナはやっとの思いでキャビンから逃れことができたのだ。母は自由になったときに28才になっていた。つまりこの監禁期間は14年にものぼったのだ。父は逮捕され終身刑を宣告され刑務所に永久にいるはずだった。
 そして10年余りが経ち、自然写真家の夫と幼い二人の娘の母となって、ひっそりとマスコミの目を逃れ暮らしていたヘレナだったが、その幸せな生活のつづくある日、刑に服しているはずの父が二人の看守を殺した上、脱獄して野に逃走したというニュースを聞くこととなる。
 逮捕当時マスコミを騒がせ「沼の王」と言われた父は、知略と謀略に長け、決して警察には捕まえることができないだろう。その父を出し抜き再び捕らえ刑務所に戻すことのできるのは、「沼の王の娘」と言われた娘ヘレナだけだ。
 こうして、カナダに接する厳しい自然の山野を背景として、父と娘の行き詰まるようね”追跡ゲーム”が展開される。

 物語は娘ヘレナの一人称で語られ、ヘレナが父を追う今現在と、自分が幼い頃から父の薫陶を受けて育った沼近い「キャビン」での生活の思い出とが交錯しつつすすむ。自然児として育てられたヘレナの郷愁、父への愛情、そして父の手から離れてから知る父のサイコパスとしての実像への憎しみと嫌悪。そういう矛盾した感情を抱えつつ、夫と娘を守るため、父から教わった知略の限りを尽くして、その父に立ち向かうヘレナ。

 ミステリ、サスペンス、アクション、ホラー・・、呼び名はどうあれ、よくありがちな、舞台装置と人間関係を使わずに、読者の見た事の無い非日常に置き換え、息詰まる追走劇を展開させる、作者の描いた世界観はすばらしい。映画化が今から楽しみだ。

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