【償いの雪が降る】アレン・エスケンス ★★★★☆

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 冒頭の数頁を読み始めた時点で『これは好きなタイプの小説だ』と思った。作者は複数の大学でジャーナリズムと法学の学位を取り、創作を学び、しかも25年間刑事弁護士として働き、今は引退しているという。そのアレン・エスケンスという人が本国アメリカで2014年に出したデビュー作が本作であり、バリー賞という賞と併せて3つの賞を受賞しているという。逆算すると少なくとも50代で初めて本を出したのだと思われるが、その割には18才の若い主人公のヴィヴィッドな感覚が良く表現されている。

 内容は・・・本の扉に書いてある短文をそのまま記載した方が早いのでそうする。
 「母子家庭で育ったジョーは実家を出て念願の大学進学を果たす。授業で身近な年長者の伝記を書くことになり、祖父母も父親もいないため介護施設を訪れたところ、末期がん患者のカールを紹介される。カールは三十数年前に少女暴行殺人で有罪となった男で、病気のため仮釈放され、施設で最後の時を過ごしていた。カールは臨終の供述をしたいとジョーのインタビューに応じる。話を聴き、裁判記録を読むうちにジョーは事件に疑問を抱くようになり、真相が探り始めるが・・・・・。」

 と、まあ、アメリカのミステリではまったくよくある、冤罪を晴らすタイムボンバー物だ。本作の場合は罪人とされた男ががんで余命数ヶ月という設定だが、よくあるのは罪人とされた男の死刑執行が秒読みのように迫る中で、無罪を確信したある人物が疑いを晴らすために奔走するというタイプだ。容疑を晴らすヒーローとなるのは、家族だったり、弁護士だったり、刑事だったりする。
 本作ではそのヒーローが大学に入学したばかりの18才のジョーだが、ジョーには父親がいず、母は酒浸りで年がら年中男を変え、進学のための資金を貯めるためバイトに明け暮れるジョーに金をせびり、種違いで2歳下の弟ジェレミーと言えば自閉症だ。
 そんな家庭環境から逃げ出すように、ジョーは大学のある町でバスルームが玄関の外にあるという情けない造りの安下宿に移ってきたのだ。
 しかしだらしの無い母は酔っ払い運転で警察に収監されたり、しょうも無い男を連れ込んだりして何かとジョーに迷惑をかける。自閉症の弟ジェレミーは、強い言葉をかけられたり、いきなり体を触られたりするとパニックを起こしてしまうし、到底一人で生活することは出来ないのだ。
 ジョーは母が問題を起こす度に、弟ジェレミーの面倒を見るために、実家に飛んで帰らざるを得ない。場合によっては自分の狭い下宿に弟を連れてきて泊まらす事もある。あげく、苦労して貯めた大切な学業資金を母の罰金の支払いに使ってしまうはめになってしまい、それでも家族を切り捨てることのできない、あまりにけなげでやさしくかわいそうだが、それでもがんばるジョーだった。
 またジョーには唯一の親族であった祖父(母の父)がいたが、これも数年前に事故で亡くし、なにやらいわくありげだ。
 一方、ジョーの下宿の向かいの部屋には、可愛い女の子ライラがすんでいて、ジョーと同じ大学生のようだ。いろいろ悩みはかかえるものの、そこは若い男の子であるジョーがなにかと気をひこうとするが、そうおいそれとはなびいてくれる気配も無い。
 ジョーがインタビューする、がんで余命3ヶ月というカールにも人生をはかなむ事情があるようだ。それは遠くベトナム戦争での記憶に関係する。
 あまりに永く刑務所で過ごしたカールは外の世界での季節を感じることが出来なかったので、静かに病室のベッドから見る雪が珍しく、そのうち大雪が降る時を待ち遠しくしている。

 こんな設定から、新しい事実がどんどん判明し、やがてカールの無実を確信したジョーは、カールの死期が迫るなか、積極果敢、若さの無鉄砲で事実を解明しようと疾走する。カールが楽しみにしていた大雪が降る中で、ジョーは凍るような寒さの荒野で命からがらの大逃走劇を展開することとなる。

 母と母の男は二人して最低極まるが、自閉症の弟ジェレミーも事件の解決に一役からみ、また当初にべもなかったライラも強力な助っ人となり、物語は、ミステリ、謎解き、アクションが織り交ぜられつつも、雪深いミネソタの叙情で見事に集約する。
 最初に書いたように、自分の好きなタイプの本でした。


 

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