【蜜蜂と遠雷】恩田睦 ★★★★

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 文庫本がそのうち出るだろうと思って待っていても一向に出ない。しびれを切らしてそこそこ値下がりした中古本を取り寄せて読んだ。それでも送料込みで1000円台だ。
 耳で聞く”音楽”というものの”感動”を”音”ではない媒体で伝える、というチャレンジを成功させた名作と言えるだろう。このタイプで過去に自分がすごく感動したのが、一色まこと【ピアノの森】(全26巻)というコミックがある。とあるスーパー銭湯に置いてあったので、風呂と風呂の合間に1巻から読み始めたら、感動の涙に襲われ読むのを止められなくなり、その当時の発刊済みだった10巻ぐらいまで一気に読んでしまった。以来このタイプ(”音楽を文字または絵で伝える”)の著作が好みのジャンルになった。
 従って、本作【蜜蜂と遠雷】に対する★4つの評価は完全に自分の趣味によるもので、恐らく一般的な評価とは異なるかもしれない。しかしながら、直木賞、本屋大賞ほかの賞を受賞していることも考えれば必ずしも偏ったものでは無いと思う。
 舞台は世界的評価も高く、各国の若い優秀なピアニストが集まるという設定の、芳ヶ江国際ピアノコンクールでの一部始終だ。ピアノにとりつかれ、コンクールという過酷な場で自らの音楽を体現しようとする若者達の青春群像である。

 物語は芳ヶ江国際ピアノコンクールに先立つパリでのオーディションのシーンから始まる。そのステージに現れた14、5才にしか見えないひとりの少年、風間塵(かざまじん)は養蜂家の父のもとで世界各地を移動しながら生活してるが、最近没したばかりのピアノ界の巨星ユウジ・フォン・ホフマンが唯一自分から相手先に出向いてまで指導したという秘蔵の弟子だった。 そのホフマンの推薦状があるからこそ、塵はこのパリのオーディションに招かれることになったのだ。蜂と共に世界を旅して、蜂の羽音や自然の音を聞きながら育った塵は、初めて聞いた曲をその場ですぐ弾くことのできる天才と、常人の感知し得ない音を聞き分ける音感を持っている。彼の醸す音楽は、ホフマンの残した『ギフト』であり、また聞きようによっては『厄災』でもあったのだ。
 ホフマンの予言通り、パリのオーディションで審査員の間で物議を招いた塵の演奏だが、かろうじてオーディションを通過し、いよいよ日本で開かれる、芳ヶ江でのコンクールにやってきた。そこには、各々傑出した才能を持つ上に、更に気の遠くなるような練習と努力を重ねた末に、コンテスタントとして選ばれた若者達がいた。彼らだけではない。彼らをサポートする者達、彼らを審査する者達、それぞれの過去がありいきさつがあり人間関係がある。お互いに対する”影響”があり、”共鳴”があり、”協奏”がある。 

 作者、恩田睦はこの芳ヶ江国際ピアノコンクールの第1次から第3次までの予選、それに続く本選という、あまりに長きにわたる音楽のシーンを、登場人物達のエピーソードや情感を丁寧に綴りつつ、思い込みを込めて描く。
 語られる言葉はすでに、恩田睦による音楽論であり、音楽にたずさわる全ての人達に対する畏敬であり愛情である。
  
 作中に演奏された、とされる楽曲のリストを見るだけで、めまいのするような分量だ。およそクラッシック楽曲に関しては、ベートヴェン・モーツァルト・シューベルト・バッハ・ハイドン・・・他極めてオーソドックスないくつかの曲しか知らなかった。ラスマニノフ・バルトーク・プロコフィエフなどは名前ぐらいは聞いたことあるような気がするが、いったいどんな曲なのかの知識が全く無い。本作の最後の3分の1ぐらいはユーチューブでダウンロードしていくつか聞いてみたが、あまりピンとこなかった。とってもクラッシック(数十年前)なクラッシック音楽知識しか無い自分にはちょっと荷が重かったかも。

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