【北氷洋】イアン・マグアイア ★★★★

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 今から160年前!1859年の凍てつく北氷洋に鯨を求めて向かうイギリスの捕鯨船。もちろん帆船である。乗組員のほとんどは陸では喰っていけない荒くれ男達だ。噎せ返るような体臭、吐き気を催す糞尿の臭いに纏わりつかれ、アザラシの血と脂と腐肉の獣臭が充満する狭い世界が彼らの舞台だ。
 当時の英領インドで軍医をしていた若いサムナーは軍医長の非道により軍を追われ、阿片中毒となり、バクスターに雇われこの捕鯨船ヴォランティア号の船医として乗船することになった。
 鯨油から石油へと燃料素材が変わっていくこの頃、いずれ捕鯨の時代の終焉を予期した船首バクスターはこの持ち船ヴォランティア号を北氷洋の氷塊の間に沈めて多額の保険金を獲得しようという非道の密謀を企てる。その命を受けた船長ブラウンリーは鯨を追うという名目で、夏が終わり氷で閉ざされようとする遠い北の海に敢えて船の進路を取る。船は氷山に押しつぶされ、船員は意を汲んだ僚船ヘイスティングス号に救われるという筋書きだ。
 しかし、船倉の樽から、いたいけな13才少年給仕の全裸死体が発見される。しかも、手ひどい強姦の跡を残して。犯人はおよそ善という性質を持たず、欲望を満たすためには人を殺すことを躊躇しない、文字通り獣のような銛打ちの男ドラックスだ。
 船は彼らを乗せて凍てつく北氷洋の氷塊の中にすすみ、やがて計算通りといってよいのか、強烈な嵐に見舞われ氷山に押しつぶされ沈没してしまう。氷塊に乗り移りかろうじて生き残った船員達は、僚船ヘイスティングス号も氷の海の藻屑となって沈んだことを知る。
 ここに至り彼らは、わずかのアザラシ肉や鯨油、ぼろきれ、帆布で作ったテントなどの貧しい物資を頼りに、なにもかも凍る北氷洋上の氷塊の上に取り残されたのだ。
 生き残るのは誰か?そして非人間ドラックスに報いは訪れるのか?

 アザラシを捕らえ、血をすすり、皮をはぎ、脂を取り、肉を喰らう。鯨も同じだ。生きて、金を稼ぐための氷海の上での容赦の無い殺戮シーンは目を背けたくなるほどの凄惨だ。凍る空気の中で殺したての獣肉に刃を立てれば、獣肉からは熱い血が流れ湯気を醸し、男達は血で染まる。
 人は動物だったのだ!という事実をリアルに実感させられる迫力の描写がすばらしい。
 イギリスで2016年出版のこの物語はBBCでドラマ化決定とあるが、果たして実写化できるか?これを映画化したらすごい!
 

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