【七人のイブⅠ・Ⅱ・Ⅲ】ニール・スティーヴンスン ★★★

画像


 ビル・ゲイツ、オバマが絶賛したと言われる【七人のイブ】Ⅰ・Ⅱ・Ⅲの全3冊、2段組の文字だらけの、延べおおよそ1000頁にのぼる濃密かつ長大な超ハードSFを、毎年11月決算の会社申告を済ませなければいけない年末年始のこの忙しい合間を盗んでようやく読み終わった。
 というの嘘で、あまりの文章量に、自分の読破力が未熟すぎて、実はⅢ巻400頁の後半は、絶対やってはいけない飛ばし読みをしてしまった!
 いや、すごいのよ!私の力ではこの文章を読み切ることが出来ませんでした。この事態に陥ったのは久しぶり。だいたいは読んでいるうちに読了する価値無しと感じたものはたまに飛ばし読みをするが、本作は(恐らく)SFの金字塔的作品になると思われるので、是非キチンとコツコツ読み終えたかった。
 フィクションの中に矢つぎばやに提示される固有名詞と一般名詞、専門用語の量が半端ない。と思わせるのは、なにせ、映像無しで、あらゆる機械・構築物を言葉のみで表現しているので、使われた言語を頼りに、実際の”物”をイメージするのに相当エネルギーを使われ、今使われている名詞が前に出てきたときなんの事を言っていたのかすぐさま思い出せず、かといってあまりに部厚な頁を読み返して単語を探すというのがたいへん面倒で、またそうすれば、現在進んでいるストーリーからいったん離れることになり、集中を妨げられてしまう、というたいへん読みにくい本だ。わずかに数枚の挿絵がありはするが、全編で語られているフィクションを、キチンとイメージすることは相当困難である。つっかかり、留まりながら、理解半ばのうちにしどろもどろで読み進んだと言わざるを得ない。弁解すれば、構想のあまりの巨大さの割に、面白くなかった、と感じた。まあ、これも自身の読解力の不足故だ。これをスイスイ読める人は相当頭が良いのだろう。自分にこの本を楽しむだけの能力が無かったと言うことだ。一応、これだけの文字数を書き切った著者の熱量に脱帽の意を示すために、評点は★3つとした。

 以下はネタバレになってしまうので、本書をこれから読もうとする人はパスした方が良い。(おそらく、この巨編に挑戦しようとする人はすくないかとは思うが)。


 月がある日割れた。その原因は諸説あるが、一般にはその現象自体は<エージェント>と言われ、割れた月は当初七つの大きなかけら!(それにしても巨大だ)に別れて、それらは<セブン・シスターズ>と呼ばれた。これが本書の題名につながると思われたが、それは実は後半で明らかになる文字通りの七人のイブ達の暗示なのだ。
 月の元あった軌道上に分散するかけら達はやがて相互に衝突を繰り返しされに割れ、その数は幾何級数的に増大し、やがて膨大な岩石群が地球に降りそそぐことになる。無数に別れた月のかけらが大気に降りそそぐ<ハードレイン>と呼ばれる厄災のその時までわずか2年余り。1000年の間、大気は灼熱の炎となり、当然70億の人類を含めて地上の命は全て死に絶え、地球は赤く燃えさかる星となってしまうのだ。<ハード・レイン>が収まり、再び人類が地球で暮らせる環境に戻るまで5000年の歳月がかかることが明らかになった。
 政治家と科学者達は、全地球を挙げて、人類の宇宙への脱出をはかる。ロケットを打ち上げ物資・食糧を運び、数少ない選ばれた人類の代表を送る。生き残るのに必要な食糧と酸素と水、その長期に亘る再生産設備、物資の保管空間、人類はじめ生物の遺伝情報、そして、それらを維持修繕するための必須の部品や工具類、半導体や接着剤、パネル、繊維(総称して<ビタミン>)も相当数打ち上げた。
 幸い宇宙にはその核となり得る、宇宙ステーション<イズィ>があり、その周辺に地上から打ち上げた<アークレット>と呼ぶ居住・保管構造物を出来るだけたくさん結びつけるのだ。
 前から<イズィ>の船首には宇宙空間で捕らえた小惑星<アマルテア>が取り付けられ(逆に小惑星に宇宙ステーションが取り付けられている)、すでに大小様々な機能を持つ多くのロボットが宇宙空間で働く環境ができあがっていた。<アマルテア>は主に鉄とニッケルで出来てていて貴重な資源として活用できると同時に、船首方向からの宇宙線や微少飛来物を防ぐ盾となり、乗員と船そのものを守る役目を果たすのだ。進行方向の突端に<アマルテア>をくっつけた、<クラウド・アーク>と呼ばれる、<イズィ>とその周辺に群れとなって浮かぶ色々な種類の多数の<アークレット>達の様子は超大規模な護送船団のようだ。
 <ハード・レイン>が始まる最後の時まで人類のあがきが続く。その間地上では、アメリカ大統領が宇宙脱出に反対する勢力に対して核を使うことまでした。そして<ハード・レイン>が始まったその時点で、宇宙に浮かぶ<クラウド・アーク>にはわずか1500人あまりの人々だけがいた。地上には生命はすでに無い。
 地上で<ハード・レイン>が始まった頃、熱波を避ける必要上<クラウド・アーク>を更に地球周回の高軌道に<ビッグ・ライド>させようともくろむ主流派に対して、火星に逃れ植民基地を作ろうという一団は、多数の<アークレット>からなる<スウォーム>を形成し、<イズィ>から離別してしまう。
 主流派にとって必須となるのが<ビッグ・ライド>に必要な大量のエネルギー源だ。実は2年前に、この事を見越した実業家が少数の宇宙船で遠い軌道にある氷でできた微少惑星を確保すべく<イズィ>から旅立ったのだ。そして数々の困難と英雄的義性を乗り越えて、氷の惑星はかろうじて<イズィ>に取り込まれ、なんとか<ビッグ・ライド>をなすことが出来た。
 一方火星を目指した<マーシャン>の一団は、さらなる内部分裂と食糧危機を経て、壊滅寸前の状態で<イズィ>に助けを求めてきた。
 数々の危機と奇跡を経て再び合流した人類が、求めた安住の地は、ひとつだけ残ったおおきな月のかけら(その名も<クレフト>)に生じた巨大なクレパスの底だった。やがてはクレパスの上部をガラスで覆い、宇宙服無しで人が生活出来るようにする計画だ。
 しかし、その時点での生き残りは8人の女性のみだった。しかもそのうち一人は閉経しており、実際に妊娠出来るのは7人だけだった。女は強し!そして女は守られる。何となれば究極の生殖には必ず女が必要だからだ。
 しかし女だけでどうやって子を成して繁殖するのか?生き残ったうちの一人の遺伝学者がその隘路を提案する。それは<オートミクシスな単為生殖>だ。単為生殖は現在の技術で可能のはずだが、それだと単に親のコピーが出来るだけなので、<遺伝的多様性(ダイバーシティ)>を確保するために、高度な技術を駆使してDNAの組み替えを行うのだ。やがて男に必須なY染色体を合成して、男が生まれ、人類は多様性を確保しつつ増えていくはずだ。
 そして5000年後。地球の北極はるか上空の宇宙空間に浮かぶ直径84000Kmのリング、<ハビタット・リング>には30億の人類が暮らしていた。その直径から比べるとリングの輪っか自体は髪の毛のように細く見えるが、その髪の毛のようなパイプの中には<ハード・レイン>以前の地球、つまり<オールド・アース>の都市並の構築物が形成され、人々は<オールド・アース>の文化を更に発展させた文明社会で生活しているのだ。
 その住人は<七人のイブ>の末裔である7つの人種とそれらの混血種だった。それぞれがそれぞれの<オールド・アース>で言う国のような地域を形成し、時には諍い、時には交流しながら繁栄しているのだ。
 そして、<ハード・レイン>後5000年の地球には、彼らの手による<テラ・リフォーム>計画がすすめられ、<オールド・アース>とは多少異なるものの、種々の植物や生物が生きている。<ハビタット・リング>の中心には<アイ>という巨大な構造物があり、長大な糸<テザー>により地球に降りていくことが出来るのだ。
 <ハビタット・リング>から派遣された地球監視員の一人が、地球監視の業務を終えて帰るある日、地上の木陰から自分達を観察する自分達とは異なるヒトがいるのを目撃する。
 果たしてそれは何なのだったろう?
 そして、この長大なサーガが終わろうとしているその時、宇宙にでて数々の危機と困難を乗り越え、滅亡の縁から奇跡的に生き残った人類の歴史とは、まったく異なった奇跡が!
 その内容まで書いてしまうと完全にネタバレになってしまうので、この長い物語の冒頭にちゃんと伏線があったのだ、とだけ言っておこう。

 ともあれ、相当ヒマだったらもう一度最初からキチンと読見直してみたい思う、3冊だった。
 

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック