【ゲルマニア】ハラルド・ギルバース ★★★

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1969年生まれのドイツ人作家ハラルド・ギルバースの処女作【ゲルマニア】を読んだ。ドイツヒトラーの「ゲルマン帝国」の夢破れんとする時代。ユダヤ人元刑事の猟奇殺人事件捜査を通じて戦火のベルリンを描いた意欲作である。
 解説によれば、当時の世相を背景とした娯楽作品を発表することは半ばタブー視されてきたが、最近になり積極的にナチ独裁体制を題材とした作品が出てきているという。ドイツ人にとっては、二度と口にしたくないが、かといって忘れることの絶対許されぬナチの犯罪だ。だから、所詮は娯楽の一種であるサスペンス小説でその時代を舞台にするなどということは、もってのほかの暴挙である、という所だろうが、むしろ近年ではその禁忌から目をそらさずに、小説や映画の題材として当時の悲惨を語っていこうという気運が出てきているようだ。
 戦後70年。起こった(起こしてしまった)事実を見つめ直す、という冷静さが生じてきていると言うことか。右翼の人には怒られそうだが、”日本人による日本の戦争犯罪を日本人が語る”、というような作品も他ならぬこの日本で発表されても良い時期なのかと思う。【永遠のゼロ】だけが戦争の真実では無い。理不尽な陵辱略奪殺戮や捕虜虐待の事実を封じ込めてはこの国は進歩しない。大阪の政治家が思わず口にしてしまったように、同じような事は他の国でも行われていた、ということはこの国の為した罪をいささかでも減じるものでは無い。


 大戦末期1944年5月のベルリン。連合国が大陸の奪還に動き、ベルリンは連日連夜の空襲に見舞われ、ユダヤ人はあらかた収容所に送られた。アーリア人を妻に持つという理由で、ユダヤ人オッペンハイマーはかろうじて収容所送りを免れてはいるが、刑事の職は解かれ、工場での金属部品磨きの労働に駆り出されている。日々、夜々の空襲で防空壕に逃れれば、同じユダヤ人アパートの住人達がいる。
 そんななか、娼婦を狙った連続猟奇殺人事件が起こり、敏腕刑事だったオッペンハイマーはナチ将校の命令で捜査に従事することとなる。
 不定期に空襲警報が響き、道路には瓦礫が残り、あちこちに穴があく。オッペンハイマーは、ナチ下士官の運転する2輪車のサイドカーに乗り、そんなベルリンの市街を疾走する。ナチ内部の複雑な人間関係、連合国の上陸の報らせ。激動のベルリンを背景に殺人事件の捜査は地道に続く。


 読者は知っている。あと1年の間オッペンハイマーが生き残れば助かることを。そんな不確定の時代を生きるドイツのユダヤ人達。そしてまた、やがてナチが滅ぶことの”確定”をも読者は知っている。
 読み進む小説の行間にはそんな不安定が常につきまとい、推理小説としてのプロットを増幅する。
 本書の推理小説としての必須エレメントとしてベルリンの地理は必要ではあるのだが、巻頭記載の当時のベルリンの地図がまったくと言っていいほど役に立っていないのにはちょっとイライラさせられた。




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