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zoom RSS 【ホテル・ニューハンプシャー】ジョン・アーヴィング ★★★★☆

<<   作成日時 : 2018/06/12 13:40  

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 ジョン・アーヴィング【ホテル・ニューハンプシャー】を読んだ。”家族の物語”である。”悲しみ”を”おかしみ”の中に紛らした”おとぎ話”である。なぜこの本を読む気になったのかだが、以前読んでとっても気に入った西加奈子【サラバ!】で主人公歩(あゆむ)の親友となり、またその孤高であるが故に尊敬もされる友人の大好きな本がこの【ホテル・ニューハンプシャー】であることが繰り返し述べられていた。ということは、作者西加奈子自身がアーヴィング【ホテル・ニューハンプシャー】という作品にひとかたならない思い入れをしていることに他ならない。んで、読んでみたのだ。個人的にはアーヴィングの作品は過去に【ガープの世界】を読んだことがあるが、その時はこんなに記憶に残る感じでは無かった。

 で出しは【サラバ!】とたいへん似ている。というか西加奈子がアーヴィングに対する心酔の結果として、【ホテル・ニューハンプシャー】のパラレル小説として【サラバ!】を書いたと言うことだろう。もちろん【サラバ!】にいささかでも【ホテル・ニューハンプシャー】のコピーの要素があると言うことではなく、【サラバ!】は歴然としたオリジナリティで輝いている。
 小説にも、サスペンス、スリラー、コミカル、アクションなどなどいろいろなジャンルがあるが、強いていえば、【ホテル・ニューハンプシャー】や【サラバ!】に共通するいくつかの要素でジャンル分けされることが可能な新たな小説分野が創出された、ということであろうか。ファミリー・ソロー(悲しみ)・ジャスト(「諧謔」を英訳すると「jest」という単語らしい)・リジェネレイト(この小説の場合の「再生」にぴったりの英語を探すと「regenerate」のようだ)小説とでも言おうか。
ちょっと冗漫すぎるか。ぴったりした語彙が見つからない。

 所は、カナダと国境を接するニューハンプシャー州デリー、時代は1939年第2次大戦の年を起点とする。ベリー家にはいつも未来のことばかり夢見る父ウィンスロー(ウィン)、良家の出でやさしい母メアリー、ホモ(原文の表現を重視した)の長男フランク、美人で勝ち気の長女フラニー、やがてはバーベルで体をムキムキに鍛えるようになる次男ジョン(主人公で語り手、著者自身を投影しているのか)、小人症だがやがては大作家になる次女リリー、難聴気味なのにとっぽい性格の三男エッグ、そしてなにより、父の父であり楽観的で磊落な祖父ボブ達がいつも騒々しく暮らしている。ただし、物語の起点はまだ子供達が生まれていない、父ウィンと母メアリがメイン州のホテル「アーバスノット・バイ・ザ・シー」でのアルバイトで初めて出会う1939年だ。
 父ウィンと母メアリはそこで出会い結局結婚することになるのだが、そのホテルには、アトラクションとして熊の芸を売り物にするユダヤ人フロイト(ジクムントのフロイトでは無い)が出入りしていたが、フロイトはドイツに帰り(これが1939年ナチス興隆真っ盛りの時代だ。フロイトの運命やいかに)ウィンはなんと!熊の「ステイト・オ・メイン」(やがてその鳴き声から単に「アール」と呼ばれるようになる)を譲り受け、ペットとしてニューハンプシャー、デリーの実家に持ち帰る。
 結局ウィンは苦学して大学を出るのだが、その間「ステイト・オ・メイン」の面倒はもっぱら、地元の高校でフットボールのコーチをしているウィンの父ボブ(アイオワ州出身なので「アイオワ・ボブ」と呼ばれている)が見ることになる。
 結婚したウィンとメアリは相次いで先の5人の子供を産むことになる。
 そしてウィンは何を思ったのか、地元の閉鎖した女学校を、メアリの死んだ両親の遺産を売り払った金で買取り、ホテルを経営することになる。これが「第1次ホテル・ニューハンプシャー」だ。
 このホテルで一家は住まい、ガチャガチャと様々なハプニング・エポック・事件が起こりつつ子供達は大きくなっていく。それらは、例えば、「アール」の事故による不慮の死であり、長男フランクがホモであることだったり、長女フラニーが「アイオワ・ボブ」のコーチの引退試合を飾るためわざわざ遠くから地元の高校に呼ばれた花形フットボール選手「スターリング(チッパーと呼ばれる)・ダヴ」達により輪姦される事だったり、次男ジョンが母さん並みの年のホテルのウェイトレス「ロンダ・レイ」とよろしくやったり、次女リリーが食が細く育たないことだったり、三男エッグが難聴なのでどんなときでも人の話に入ってきていつも「何っ?」と聞くくせに都合の悪い時も「何っ?」でごまかす事だったり、いつもところ構わず屁を放る一家の飼い犬「ソロー(悲しみ)」が年老いて安楽死されられてしまい、「ソロー」を一番かわいがっていたフラニーが怒る事だったりだ。
 フランクは悪趣味にも「ソロー」の剥製をつくり、母はそれを捨てさせてしまうが、それをゴミ箱から回収してくるのはエッグで、密かに隠していたクローゼットから転がり落ちた「ソローの剥製」を見てアイオワ・ボブがショック死してしまう。
 そして夢見る父ウィンのホテル・ニューハンプシャーはやがて経営が行き詰まり、このホテルを常宿としていたこびとのサーカス団に、ホテルを売り払い、からくもホロコーストを生き延びオーストリアに逃れたフロイトからの誘いに乗って、ウィーンに渡り、一家は「第2次ホテル・ニューハンプシャー」を経営することになる・・・以降第3次ホテル・ニューハンプシャーまで物語は長くかつ濃密に続く。

 語られるさまざまなエピソードは枝葉までもが手を抜かず語られ、登場人物達の個性を強烈に浮き上がらせる。なにか滑稽でまた限りなく悲しくもある。そしてこの一家の色彩を代表するのがいつも今を考えず未来ばかりを夢見る、(読みながらつくづく思った)”ネジの緩んだ”父ウィンだ。そうして読み進んでいったら、実際に本書下巻の191頁で長男フランクの言葉として「父さんはどこかのネジがはずれていた」、とあるでは無いか!
 このネジの外れ具合が、実は実は悲しく哀しく恐ろしくおどろおどろしくあるはずの物語に、暖かくやさしいバックグラウンドの色合いを与え、読者はなにか癒やされるような気分で読み進み読了することができる。いきあたりばったりのようで、奇妙に統一感のある他では無い味わい深い本である。


 カナダと国境を接するメイン州

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